多くの方のブログを拝見して、いつか行きたいと思っていた雲ノ平。ここ数年、主に後立山連峰で経験をいくらか積み、山小屋での連泊にも慣れて来ました。今年晴れて年金生活者になり、自由になる時間と老化のスピードとコロナの状況を天秤にかけ、お盆の混雑前にと思い切って行ってきました。
- 登山計画 -もっとも楽しい時間-
- 往路 -前時代のサービス品質-
- 第一日 -折立から薬師沢小屋へ-
- 第二日 -雲ノ平への隘路を登る-
- 第三日 雲ノ平を後に
- 第四日 下山
- 帰路
- 今回使用したカメラ類
- さて、次はどこへ
- 謝辞
登山計画 -もっとも楽しい時間-
雲ノ平への入山経路は次の3ルートを検討しました。
3番目の高瀬ダムからのルートは体力的に不安。新穂高ロープウェイからは折立へ下りて富山経由での帰埼が面倒(新幹線代が高い!、できれば青春18きっぷで帰りたい)なので、毎日アルペン号に乗り夜行で折立に向かい、太郎平小屋から薬師沢経由で入ることにしました*1。しかし、こうしてああでもないこうでもないと考えることで装備に不足がなくなるはずです。検討結果のルートはGARMINのナビで使うためにdynamicWatchに保存してあります。
泊まりは全て小屋泊です*2。
4月からバスの予約と小屋の予約を始めましたがコロナ禍の折、各小屋の今シーズンの営業がどうなるのかをやきもきしながら眺めつつ同行者にも予約のお手伝いをお願いしつつめでたく手配完了となりました。後は、天気ですがこればかりはなんとも。ただ、お盆間近になると登山道も混み合うでしょうから梅雨明けは例年どおりかやや早いだろうと、7月下旬に日程を設定しました*3。
往路 -前時代のサービス品質-
最寄り駅から湘南新宿ラインで新宿に向けて久しぶりに夜の電車に乗ります。
都庁前大型バス駐車場。11時出発のだいぶ前に到着しましたが、すでに同好の方々がちらほら集まり始めています。窓口等はまだ設置されていません。
各方面に向けて数台のバスが同時に出発しましたが、折立方面への便は小型の車体で座席間も狭く、前の座席の乗客がリクライニングを深々と倒しており窮屈な思いをしました。それでも、休憩場所でリクライニングを少し立てるようお願いをしたところ、幾分改善されました。もしかして不馴れだったのかもしれませんが、そんな方のために発車前後にアナウンスが欲しいところです。
それにしても、どんな基準で車体を選んでいるのでしょう。恐らく行き先の地元のバス会社を選び、乗車人数、乗車時間等は一切考慮していないのでしょう。主催会社のサイトにはコロナ対策についての記載がありましたが、密度についての記載はなく2席利用を日単位の追加料金で対応とのこと。要するに、安価で移動手段を提供する代わりにリスクは自分で負えということです。咳をする乗客が一人もいなかったことは単に幸運だっただけでしょう。立山・折立、上高地など、人気のルートに使うには慎重にならざるを得ません。
新宿を出発してから約6時間半後、バスの乗り換え場所の立山アルペン村に到着(写真のバスは乗り換えて折立に向かうバスで立っている方は関係がありません)。
第一日 -折立から薬師沢小屋へ-
折立に到着。駐車場はほぼ満杯でここでも人気のほどをうかがい知ることができました。
水を補給して登山道に向かいます。
十三重塔*4に手を合わせて登山道に入ります。この手のものは少々苦手なので写真は撮りません。
標高1,870mの三角点にはご年配の登山者の方々多数で関西弁の比率大。
薬師岳は雲の中です。
今回最初の花はニッコウキスゲです。
積雪を遠目から確認するためであろうポールがあります。
おなじみギンリョウソウ、高山植物かと思いきや説明記事にはその記載は見当たりません。
斜面に咲くニッコウキスゲ
そうこうしているうちに標高2,196mの五光岩ベンチに到着。
薬師岳が雲の中から現れました。
ニッコウキスゲのお花畑。そろそろ飽きてきます。
登ってきた道を振り返ってもニッコウキスゲ。
木道が続きます。咲いているのはチングルマとイワカガミ。
出発から約5時間、太郎平小屋に到着。
一息ついてから登山計画書を提出します。私の前の登山者がパトロールと思われる方に行程を相談していましたが、薬師沢小屋から雲ノ平に行きたいと言ったところ「やめたほうがいいですよ」と諭されていました。自分の登山計画書を提出しながらわけを訊いてみると、「ルートをろくに調べていない」、「薬師沢小屋からの上りの登山道は急なうえに滑る岩が多いので事故が多い』とのこと。翌日のことを考え少し不安になります。
昼を摂って30分ほど休憩し、薬師沢小屋に向けて出発します。
薬師沢から雲ノ平へ直登するルートを紹介するガイドブックでは、1泊目を太郎平小屋とする行程が多いのですが、休憩と食事の時間を多少削って薬師沢小屋まで脚を延ばすことをおすすめします。なぜなら、薬師沢小屋からの登坂ルートが急なうえに滑りやすく緊張を強いられる時間が長いので、体力を消耗した午後に挑むことは大変危険だからです。
太郎平からの下りこそなかなかの急坂でしたが、下りきってしまうと沢沿いのなだらかな道が続きます。3つある徒渉点をを木道で通過し、高山植物を見ながら沢沿いに薬師沢を目指して下ります。途中、高齢のご夫婦と抜きつ抜かれつ歩きましたが、ペースを変えずに淡々と歩く様子に経験を感じました。やはり、継続は力なのか。
第一徒渉点です。
第二徒渉点。
iPhoneのパノラマを使います。なだらかな様子がおわかりいただけると良いのですが。
第三徒渉点。薬師沢までの行程で川を渡るのは最後です。
キヌガサソウです。ポスターのような写真になってしまいました。
ニッコウキスゲ。この花とチングルマは群生している場所が多く平地のタンポポのようです。
ムシトリスミレです。食虫植物で比較的広い山域に生息しているけれども数はそれほど多くないそうです。
途中、針葉樹の木をよく見ると、枝がいったん下方に伸びてから上へと方向を変えています。雪の圧力から枝を守るためでしょう。環境に順応する能力に驚かされます。
太郎平小屋を出発してから約2時間30分。薬師沢小屋の赤い屋根が足もとに見えました。到着です。到着前に標高差約200メートルを下りますが、なかなかしんどい下りでした。
太郎平から来ると小屋の裏手に下りてきますので表側に出てから1枚。
沢で魚釣りをしている人が見え、しばらく見ているとヒット!なかなか面白そうです。
ザックを下ろして受付に向かうと、そこにはひとりの女性が。「やまとけいこさんですか?」と尋ねると「そうです」とのこと。いてくれて良かった。サインをもらおうと「黒部源流山小屋暮らし」を持ってきた甲斐がありました。
本に書かれているとおりで、なるほど小屋は傾いています。その傾き方は方向がまちまちで、室内を歩いていると水平感覚が混乱して「酔います」。
沢を覗くと渓流が綺麗です。釣り人の様子を眺めながら一日二日過ごしてみたい小屋です。
清流とはこのこと。
薬師沢小屋のテラスから黒部川の下流方向を望みます。黒四ダムのあたりから深い峡谷を造りだした川とは思えません。
第二日 -雲ノ平への隘路を登る-
薬師沢小屋前の吊り橋を渡って出発です。やまとけいこさんに挨拶をしたかったのですか、朝の忙しい時間で受付に姿が見えなかったのでそのまま出発。たぶんまた来るでしょう、小屋が傾ききる前に来たいですね。
薬師沢小屋水源を通り越し、登山路にとりつきます。
薬師沢小屋はここで見納めです。
先行した何組は高天原方面に向かったようです。
水について改めて。
薬師沢小屋の水源は近くの沢で水量も豊富な様子で、宿泊者は無料で遣うことができます。夜行バスで来て、1日歩いて汗まみれの体を冷たい水に浸したタオルで拭くと気持ちがいいのですが、下着等を川で洗わないように*5。川の水は綺麗とはいえ、鉱物その他の不純物が混じっているのでどうしても臭いがします*6。
薬師沢に対して、雲ノ平は溶岩台地という立地からなのか、水事情が大変厳しそうな場所ですから数日携帯するという衛生面の懸念はありますが、ご自分の体力と相談したうえで薬師沢小屋を出発時に大きな負担にならない程度の水を持っていくことをおすすめします。
登り始めてしばらくは登山道周囲の様子を撮る余裕がありました。
しかし、30分もするとその余裕はまったくなくなりました。ただでさえ滑りそうな岩が濡れていっそう滑りやすく、また1歩1歩の高低差が大きく3点支持で登ることも度々。前日パトロールの方が言っていたとおりの道でした。しかも登山道にてんこ盛りのう○こ*7があったり、下ってくる登山者も結構多かったりで休息しながら登ります。ストックは使ったとしても1本です。2本では自由になる手がなくなり危険です。
2時間30分後、ようやく登り道が終わる気配。
アラスカ庭園に出ました。
しばらく進むと視界が開け、遠くに黒部五郎小屋を望むことができます。
その昔、13人の大学生の命を奪った山とは思えない穏やかさですが、長野側から望むとやはり険しい。
水晶岳、残念ながら視界が悪くなり始めました。
改めて黒部五郎岳、薬師沢小屋からの直登は雲ノ平への最短ルートですが、赤木岳から黒部五郎岳を経由する稜線歩きもまたいいかもしれません。
ハイマツの向こうに薬師岳。こちら側にはまだ晴れ間が見えます。
祖母岳の麓を辿る木道の道
水晶岳をバックに建つ雲ノ平山荘。もうまもなくです。
小屋に到着する直前、祖母岳の山頂に立ち寄ります。山頂ですが、丘のてっぺんのような場所でピークハントの実感はありません。
祖母岳からの下りで雷鳥親子に遭遇。母鳥が4羽の雛を連れて採餌をしていました。日本に生息する雷鳥は平均6.04個のたまごを産む*8そうですが、昨年蝶ヶ岳で遭遇した母鳥も連れていた雛は4羽でした。北アルプスは生存環境としては厳しい場所なのかもしれません。
雷鳥母ちゃん。上空を監視しているのでしょうけれど、ポーズをとってくれているようにしか見えません。
雛は気ままに散策中。
雷鳥をしばらく観察してから元の道に戻り、雲ノ平山荘を目指します。途中に咲いている花には花ごとに昆虫が蜜を集めています。短い夏大忙し。
雲ノ平山荘に到着
周囲の風景を無作為に
ひと休みした後、散策に出かけます。木道の傍らにクロユリ
ゴゼンタチバナ(御前橘)、葉が6枚にならないと花が咲かないそうでその花の花弁はケーキのトッピングのようです。
こんな蛾(もしかしたら蝶か)も、
キャンプ場への分岐から見る水晶岳。
スイス庭園から高天原峠。この付近では携帯で通信が可能なので、明日以降の天気情報を入手し家人に現在位置を知らせておきます
コバイケイソウの花畑の向こうに雲ノ平山荘。
綺麗な山荘でした。トイレが洋式ならもっと良かったんですが…。膝痛、腰痛に悩む高齢登山者にとって和式トイレは肛"拷問です。
第三日 雲ノ平を後に
明け方、窓を叩く雨の音で目が覚めました。憂鬱(´・ω・`)ですが、明日には下山しないとならない*9ので出発の準備をします。憂鬱とは言いながら、MILLETのTYPHON50000を本降りの中で使うのは初めてなのでちょっとわくわく。
ところが、レインウェアを入れたスタッフバッグを開いてみたらAXESQUINのレイングリップが入っていません。あーあ、なんのために大枚をはたいたのやら。
昨日散策した道を再び辿りキャンプ場を遠目に見て祖父岳分岐を目指します。かつてはキャンプ場からその上部をトラバースする登山道に直登ができたようですが、植生復元のために現在は使用禁止。このルートがあればキャンプ場の水場で水の補給ができたのですが、残念。
雲ノ平山荘を振り返ります。再訪することがあるかな?
日本庭園まで歩くと槍ヶ岳が見えてきました。
三俣山荘が見えてきました。いったん下ってあそこまで登り返します。
徒渉点を渡り、黒部源流の石碑を見て、登り返しにかかります。
沢にはクルマユリにハクサンフクロ。
雨が強くなる中、三俣山荘に到着。
玄関先に段ボールを広げてザックを下ろす場所を提供してくれました。おかげでレインウェアを脱ぐことができます。助かります、ありがとうございました。
食堂ではストーブが焚かれていて、コーヒーはサイフォンで淹れています。
登り返しでくたびれているのでホットカルピスで一息ついて再び雨の中へ。
三俣峠に到着。
三俣蓮華岳から双六岳をたどるか巻き道を行くか迷います。ガスガスでなにも見えないだろうし、午後遅くなると双六小屋は雨に濡れた登山者でごった返すでしょうから巻き道を選びました。この巻き道も途中標高差100m近くを水平距離400mで登る岩だらけの箇所があり、決して楽な道ではありません。
とにかく、本道との合流地点に到着。
そこから15分ほど下り双六小屋に到着。
小屋の帳場にいた若いスタッフさん。てっきりアルバイトかと思っていたら支配人さん。
キビキビと動き、様々な受け答えもはっきりしていて気持ちの良い方でした。
小屋のホームページを拝見すると、もとシステムエンジニアとか*10。サッカーもやっていたとか。頑張ってください。
双六小屋は槍ヶ岳方面、三俣蓮華岳方面への分岐に建つ小屋だけあって規模も大きく内部の設備も整った小屋でした。乾燥室も相当な大きさ。夕食も温かいおかずが温かく提供されてきて感激しました。また、蚕棚の寝室は布団が2枚でしかも新品の布団でこれまた感激。翌朝早々に発つことが惜しくなりました。
第四日 下山
最終日です。出発する時に日の出を見ることができました。
バスの時間に間に合わせないとならないので、早々に出発します。
途中、双六小屋へ登る登山者とのすれ違いで立ち止まること度々。5時出発は正解だったようです。心残りは朝ご飯、食べたかったな。
弓折乗越への稜線に出てまもなく穂高が姿を現します。
階段の脇に花壇。
弓折乗越に到着
鏡平山荘に到着
抜戸岳山頂下のオーバーハング、上部が崩落したら大変
小池新道登山口に到着。
わさび平小屋。オレンジが冷やされていて美味しかった。
クリヤノ頭の岸壁
まもなく新穂高ロープウェイ。
林道の脇の所々風穴があり、冷たい風が吹き出します。下界の暑さにまだ慣れていないのでちょっと一息。
下山完了。
予定では13時40分発のバスで松本へ下りる予定でしたが、思ったよりもペースが上がったため11時30分発の便に乗ることができました。新穂高ロープウェイ駅周辺には店も温泉旅館もなくもう少し下山が遅かったなら新穂高温泉までさらに歩かなければならないところでした。
よかった (´c_` )
帰路
松本駅ビルの蕎麦屋で昼食を済まして、市内の銭湯で5日ぶりに入浴。浅間温泉の仙気の湯がお気に入りですが、遠いので土井尻町(旧町名)の塩井乃湯へ。
その後は特急あずさで立川・西国分寺経由で帰宅。できれば青春18きっぷで安く帰りたいという当初の意図は完全に崩れ去っていました。
今回使用したカメラ類
TAMRON 28-200mm F/2.8-5.6 Di III RXD (Model A071)
APO-LANTHAR 50mm F2 Aspherical
RICOH THETA m1511 山頂からの俯瞰の撮影に使用しますが、今回は出番なし。
さて、次はどこへ
やはり、槍・穂高の稜線を眺めることがいちばんのお気に入りです。秋に徳本小屋に泊まって霞沢岳に行こうかな。
謝辞
高山植物の名前を調べるために以下のサイト、書籍を参考にしました。
新装版が2008年に出版されていますが高山植物の項がありませんでしたので旧版を参照しました。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。