さる3月下旬に大町市平にある「ぬるめ」を訪れました。
「ぬるめ」は水を温めるためにゆっくりと流す水路のこと。NHKで2020年3月に放送された「ニッポン印象派「ぬくもりの水路」で農業用水のための施設なのだということを知り、塩の道からは少々外れたところにありますが、先人の足跡をたどるために立ち寄りました。
何のための施設なのか
場所は?
「ぬるめ」があるのは、長野県大町市平の上原(わっぱら)地区。NHKの番組によると、「わっぱら」とは原っぱのことで、扇沢に向かう大町アルペンラインが大町温泉郷を過ぎてまもなくの沿道です。山やさんはもしかしたら気がついたかもしれませんが、今までここの脇を通過するときに、車の中から「子供向けの施設があるんだな」と思っていました。
何のために?
長野県の資料によると、ここは昭和21年から昭和30年代後半に入植した人々が農業用水として使っていた篭川の水があまりに冷たく稲が育たなかったために建設した施設だそうです。取水口と排水口の大きさは用水路ほどのものですが、その間の浅い水路の長さとプールの広さから川の水がいかに冷たかったかをうかがい知ることができます。
水路に沿って歩く
「ぬるめ」の長さはおおよそ300m、取水口から排水口まで水路に沿って歩いてみました。
小さな取水口。定期的に整備をしているのでしょう、古いもののきれいな状態です。
この水路で温められる水の量はこのくらいということでしょうか。
そして、取水口から流れ込んだ水は3つの水路に分かれます。
水路の深さはおよそ10cm程度で高低差は2mほどだそうです。緩い傾斜で水をゆっくりと流すためにこれほどの広さが必要だったのでしょう。
そして、段差が4ヶ所。景観のための設備かと思いましたが、これも水を外気に触れさせて温める工夫。
排水口の直前にある最後のプールはフットサルコートほどの大きさがあります。まるで線路が並ぶ車両基地のようなたたずまいです。
排水口の手前には碑がありました。
排水口も小さなもの。ここから下流の田んぼに流れ出ていきます。
上流に向かって戻る際に景観を撮します。
取水口の付近にはお地蔵様。
先人を偲ぶ
稲の温度は1度1俵だそうです。水の温度が1℃温かくなると稲の収穫が1俵増えるそうです。長野県の記事によると、夏の暑い日でも取水口での温度が15℃、排水口で17℃だったそうですから、田植えの始まる時期はもっと低いと想像できます。これほど低い温度の水で稲を育てるのは大変な苦労だったでしょう。
NHKの番組では、入植からしばらくは全く収穫がなかったそうです。完成は昭和37年(NHKによる)だそうですが、入植開始から15年以上の年月が経っていますからその間の生計はどうやって立てていたのでしょう。子供のころ大糸線に乗って白馬方面のスキー場に足繁く通っていましたが、同じ頃にごく身近な場所で大変な苦労をされている人々がいたとは全く知らないことでした。
今度の春から夏にかけて、水をたたえた流れを見に再訪してみるつもりです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。